Monday, October 12, 2015

[Singapore] 東京のシンガポール料理店発展史

近年東京でシンガポール料理店が増えており、今までウォッチしてきたいくつかを含めどれくらいあるのだろうと調べてみたら思いのほか多くありました。それらをオープンの時期ごとにまとめてみたところ、シンガポールから満を持して進出したお店を含め競争が激化していることがわかります。今後シンガポール料理が飽きられてしまうのか、タイ料理のように定着していくのかはわかりませんが、単なる流行に乗ってお店を出すのではなくシンガポール料理に拘りを持ち、その魅力を伝えるお店が日本・東京でのシンガポール料理を引っ張っていってもらえればいいなと思っています。

☆黎明期(2000~2004年)
→チキンライスといえばケチャップライスだった時代、2000年に夢飯(むーはん)が開業。その3年後に海南鶏飯食堂が六本木ヒルズの近くに開業、六本木ヒルズの盛り上がりとともにじわじわと海南鶏飯(海南チキンライス)が知られるようになる。

[夢飯(むーはん)]
http://mu-hang.sakura.ne.jp/
まさかシンガポールがブームになるだろうとは誰も思わなかった時代、チキンライスといえばケチャップライスだった時代、2000年に海南チキンライスの専門店として西荻窪にオープンします。その後西新橋にも出店。海南鶏飯の鶏はゆで鶏と、揚げ鶏と両方。毎月5、10、15、20、25、30日はジャスミンライスの日とのことで、毎日ジャスミンライス(タイの高級香り米)ではないようですが、料理はどれも丁寧に作られています。何度か西荻窪店に行きましたが、店舗内も家具や照明が温かい雰囲気を出していて落ち着きます。

[海南鶏飯食堂(ハイナンジーファンしょくどう)]
http://www.route9g.com/
2003年5月に六本木ヒルズの裏手に麻布店をオープン。アメリカの料理学校で出会った二人が経営者となり立ち上げました。六本木ヒルズ自体が2003年4月開業のため、いいタイミングでオープンしています。雑誌などでも多く取り上げられ店が一躍有名になるとともに、その後恵比寿店を立ち上げたあたりから東京でシンガポール料理屋が急に増え、テレビでもシンガポール特集が組まれるようになったりと、東京・日本でのシンガポール・シンガポール料理の認知度向上に大きな影響を与えたたと言えます。六本木のミッドタウンの近くにもお店があります。

オーナーシェフ(経営者の一人)は、シンガポール料理に関する様々な考察をブログにて発信しています(→http://singaporecooking.blogspot.sg/)。また長年研究してきたシンガポール料理のレシピをまとめた海南鶏飯食堂クックブックという本を2006年に出版しています。シンガポール料理自体への強い思いを持って営業していることが伺えます。店員の方が料理を運んでくる時にも食べ方や、シンガポールではどうやって食べられているかなど丁寧に説明してくれたりします。お皿もすぐ下げずに「このブラックペッパーソースをご飯やロティと一緒に食べるとおいしいんですよ」と勧める等、料理を楽しんでもらいたい気持ちが感じられます。定期的にシンガポールに研究に出向き、それを踏まえてメニューも時々入れ替わるので、それも楽しめます。

☆成長期(第一次、2005年~2010年)
→恵比寿では海南鶏飯食堂に加え2店がオープンし3店が集中、局地的に競合激化。機が熟したとみたか、シンガポールから大手シーフードレストランが進出。一方で、カヤトーストのお店もできたものの閉店となる。

[シンガポール海南鶏飯(シンガポール ハイナンチーファン)]
http://www.hainanchifan.com/
2005年に水道橋にオープン。元々台南担仔麺(※台南ターミー、新宿にある同名のお店とは別系列)というお店を出していた台湾資本と思われる会社が後にシンガポール料理も手がけました。タイミング的にも店名も海南鶏飯食堂を(横目で)意識したと思われますが、私のまわりで混同してしているひともいました。その後恵比寿店ガーデンプレイス、汐留シティーセンター、赤坂サカス、三越前の日本橋三井タワー(2014年)と勢いよく、且つ好立地(賃料も高そうな場所)で出店(恵比寿店は閉店)。台湾にも出店しているようです。シンガポール大使館ご用達を売り文句にしており、シンガポール大使館のイベント向けのケータリングも行っているようです。

[エビス新東記(エビス シントンキー)]
http://www.sintongkee.jp/
2005年10月に恵比寿のJR西口駅近くにオープン。シンガポール人のオーナーだというのが他店に比べて特徴的で、オーナーの方はおじいさんが70年前に中国海南島からシンガポールに渡ったとのことで、海南系のシンガポーリアンのようです。2006年にシンガポール政府観光局から第1号認定シンガポール料理店の称号を受けたとのこと。2011年6月に神楽坂店をオープンさせていますが、2013年末に閉店。マーライオンの模様がついた鉄製の冷やされたジョッキで出てくるマーライオンビールが特徴的です。恵比寿店には何度か行っていますが、家庭的な雰囲気と、お店の方も自然な感じで話しかけてきてくれ、気持ちよく過ごせます。

[菓椰トーストカフェ]※閉店
2005年頃に横浜・関内にオープン。卵、ココナッツミルク、パンダンリーフ、砂糖で作られたカヤジャムをトーストにつけて食べる、カヤトースト専門店。2006年に閉店してしまったようです。

[ヤクン・カヤ・トースト] ※閉店
2006年10月にららぽーと豊洲にオープン。その名のとおり同名のシンガポールのカヤトーストの有名なお店が日本に進出。運営はタイレストラン「コカ」を日本で展開しているマルハレストランシステム、だとのこと。2012年頃に閉店してしまったようです。

→カヤトーストメインでは店舗を維持できるほどの売り上げにはならなかったか。カヤトーストだけでは飽きられてしまったか、今後カヤトースト専門店を出す場合には難易度が高そうです。

[ファイブスター・カフェ(五星鶏飯)]
http://www.golden-dining.com/fivestar.html
2007年6月に中目黒にオープン。タイ・ベトナム料理をベースにしたパクチー料理専門店、PHAKCHI BAR等を持つゴールデンダイニンググループが運営しています。海南鶏飯、バークーテーが売りのようです。築45年の町工場を改装したお店とのことで、雰囲気は良さそうです。

[カフェ・シンガプーラ 海南鶏飯]
http://www.golden-dining.com/singapura.html
2008年4月に六本木ヒルズ近くにオープン。海南鶏飯食堂からも近く、ファイブスターカフェと同じゴールデンダイニングという会社が運営しています。以前はゴールデンバーニングというエスニック料理屋でしたが、系列のファイブスター・カフェが軌道に乗ったためか、シンガポール料理店に業態転換。そのため作り方・味等はファイブスター・カフェと近いと思われます。

[シンガポール シーフードリパブリック]
http://singaporeseafood.jp/
2008年4月に品川駅前にオープン。シンガポールのジャンボ、パームビーチ、インターナショナル、トンロックの4つのレストランが共同で展開したものだそうです。運営しているのは博多ラーメン由丸なども運営する株式会社 M・R・S。「シンガポール政府公認レストランが日本進出した」と謳っており、新東記の認定シンガポール料理店とは違うのかもしれません。品川駅前という好立地にも拘わらず単独で大きな店舗を構えています。住所はホテルパシフィック東京となっており、京急電鉄のグループ会社、ホテル京急の敷地内に建てられている模様。建物もラッフルズホテルに代表されるブリティッシュ・コロニアル様式を採用、外壁サッシや内装デザインも工夫し建物全体でシンガポールらしさを表現している、とのことで建物からこだわったことが伺えます。蟹を初めとしたシーフードを前面に出しているところがこれまでのシンガポール料理店との違いで、マッドクラブを使ったチリクラブが名物料理。ベトナム、インド、フィリピンなどから生きたままマッドクラブを空輸する独自のルートを開拓、現在は週2便の頻度で空輸しているそうです。シンガポールのジャンボなどと同じようにチリクラブを揚げ饅頭(揚げた蒸しパン)と一緒に食べたり、チリクラブだけでなく本場と同じようにブラックペッパー、カレー、ソルトペッパー等様々な味のマッドクラブが楽しめるようです。銀座マロニエゲート(2008年12月オープン)、大阪梅田(2011年3月)、五反田アトレ(2013年6月、店名はシンガポールシーフードリパブリックジュニア)にも店舗があります。

☆成長期(第二次、2011年~2014年)
→更に継続して海南鶏飯を前面に出したお店が相次いで出店し東京全体で競争が激化。
同時に"シンガポール料理"でなく点心をメインとしたお店、パライダイスダイナシティが出店。

[MR.CHICKEN鶏飯店]
http://www.mrchicken.jp/index.html
2011年6月に移動販売を開始。2012年7月に原宿に店舗をオープン、その後2014年6月に北品川に移転しています。席数は10席と比較的小規模。メニューはチキンライスがゆで鶏と揚げ鶏の2種類以外に、タイのガパオライス、マレーシアチキンカレー、ベトナムのフォーもあるようです。シンガポールのホーカーセンターのような赤いプラスチックの皿に盛られて出てくるのが特徴です。車での移動販売は今も行っているようです。

[海南鶏飯(ハイナンジーハン)] ※閉店
http://tabelog.com/aichi/A2301/A230102/23043784/
東京ではないですが、2012年に名古屋にできたお店。食べログでは2012年1月オープン、最後の口コミは2012年7月、現在では閉店となっています。海南鶏飯食堂(ハイナンジーファンしょくどう)と店名、店名の字体、海南鶏飯食堂麻布店と門構え、白い壁、黒い窓枠等各所が酷似していました。東京でチキンライスが流行ってるのを見て似たものを作れば売れると考えたのか、そう考えた人がプロデュースしたのか、結果として味や思い入れがついて来なかったのだと思います。

[パラダイス ダイナシティ]
http://www.paradisedynasty.jp/
2013年6月、有楽町と銀座の間あたりの場所にパラダイス ダイナシティ銀座店としてオープンしたカジュアル中華レストラン。海南鶏飯を中心としたこれまでのシンガポール料理やシーフードとも異なり点心がメインのお店です。日本の会社がシンガポールの飲食店グループ、PARADISE GROUP PTE LTDと営業ライセンス契約をし開業。8色の小籠包が売りのシンガポール発の中華料理店で、8食の小籠包はそれぞれオリジナル、高麗人参、フォアグラ、チーズ、黒トリュフ、ガーリック、蟹の卵、麻辣味。シンガポールが本店で、日本以外にもタイのバンコク等に店舗があるようです。

[シンガポールコピティアム]
http://r.gnavi.co.jp/bjguc7z00000/
2013年7月八丁堀にオープン。シンガポール&ペナン料理専門店だそうです。コピティアムとはシンガポールやマレーシアでコーヒーショップのことですが、シンガポールではフードコートのようにお店が集まった場所もコピティアムと呼んだりもします。以前はシンガポールシーフードエンポーリアムというお名前で新橋で営業していたとのことです。ぐるなびによると、バークーテーは「八角、丁子、桂枝など16種類のハーブと約2kgのニンニクを2時間じっくり煮込みエキスを抽出。漢方とニンニクを取り出したあと、豚のスペアリブを入れさらに3時間煮込む。」とのことで、バークーテーには相当こだわっている様子。16種類のハーブとのことなので福建風の薬膳スープのバークーテーだと思いますが、一度食べてみたいです。

[CHICKEN RICE TOKYO]
http://food-dig.com/
2013年11月に青山にオープン。マリーナベイサンズ等日本ではちょっとおしゃれなイメージがあるシンガポールですが、そんなイメージを好みそうな客層のいそうな場所、かつ既にシンガポール料理店がない場所、ということで場所選びはよかったのではないかと思います。メニューは海南鶏飯、ラクサ、肉骨茶など定番ですが、お茶漬けやスパゲティがあるなど、必ずしもシンガポール料理だけではないようです。

[松記鶏飯]
http://tabelog.com/tokyo/A1310/A131002/13160030/
2013年9月に小川町(神田)にオープン。お店の方は休みがある度にシンガポールや、多くのシンガポール料理の起源ともなっているマレーシアのペナン島などに料理研究に出向いているそうで、シンガポール料理にとても詳しいです。お勧めの料理などいろいろと教えてくれましたし、他のお客さんとも話が弾んでいるようでした。このページ(→https://tokyo-calendar.jp/ja/article/3861?page=3)では、Kway Chap(クワイチャップ)が紹介されています。シンガポールのホーカーセンターでよく見られ、豚肉、モツ、油揚げ、ゆで卵などが入っているスタミナがつきそうな食べ物で私も好きな料理のうちのひとつなのですが、モツが入っていたりと日本でのきれいなシンガポールのイメージと異なるこの料理を日本で出すお店はさすがにないだろうと思っていたところこのメニューの存在を知り、また行って試してみたいと思いました。昨今シンガポール料理イコールあたかも海南鶏飯、ラクサ、バークーテーである、といったお店が増えるなか、こだわりを持っておいしいものを探し出し、より魅力を感じてほしいとの意図が感じられます。海南鶏飯食堂と同じように、研究を踏まえメニューの追加・入れ替えを行っているようですので、再訪して新メニューを楽しむこともできます。


☆成長期(第三次、2015年~ ※もしくは成熟期?)
→東京におけるシンガポール料理店の盛り上がりを受けてか、シンガポールからTCCと威南記が日本に展開。いずれもきれいなシンガポールのイメージの店舗。威南記はフランチャイズでの全国展開を狙う。

[TCC]
http://www.tccjapan.net/
シンガポールのカフェチェーン。シンガポールではカフェであり、食事もできるお店。日本ではプロントが同じような形態ですが、TCCの方がより明るい雰囲気で若い女性がおしゃべりを楽しむようなお店です。そのTCCが日本進出、2015年2月に銀座にオープン。ウェブサイト上では「シンガポールで人気のハイエンドカジュアルなレストラン」と謳われていますが、シンガポールで何度か利用したところでは「シンガポールに多くあるカジュアルで明るい雰囲気の食事もできるカフェ」という表現がしっくりきます。シンガポールから来たということで、シンガポールでは置いていない海南鶏飯もあるようです。食べたことはありませんが、出す以上は海南鶏飯もこだわって欲しいです。

[威南記(Wee Nam Kee、ウィーナムキー)]
http://weenamkee.jp/
シンガポールで有名な海南鶏飯屋さん。2015年7月に田町にオープン、続いて2015年9月に銀座店がオープンしました。立て続けにオープンしており、当初から複数店舗並行して準備をしていたと思われます。シンガポールのお店では海南鶏飯がメインで、メニューはその他いろいろあるものの注文の大部分が海南鶏飯と小松菜(※中国語で油菜)のオイスターソース炒めなのではないかと思います。一方、日本ではランチメニューにラクサがあり、シンガポール料理といえばラクサもあるよな、という日本のお客さんに対応しているのだと思います。日経トレンディの記事によると「シンガポール観光局のウェブサイトでも紹介されており、政府高官やセレブの間でも人気が高い。」となっていますが、シンガポールのお店は味はおいしいがお店そのものは大衆食堂で、別の人のブログでも「シンガポールのセレブが魅了されるチキンライス 「威南記」が日本初出店のプレオープンに伺いました。」と書かれていたり、なんだかもともとのイメージとだいぶかけ離れてしまったなぁという感じです。田町、銀座とも本国のお店からは想像もできないような洒落た店内。シンガポールの本店にも行ってみたい!と実際に行ってみたらあまりの雰囲気の違いにショックを受けるのではなかろうか、と思います(味はおいしいです)。威南記と日本でのフランチャイズ契約を結びモデル店をプロデュースしたのはバルニバービ(大阪市)という会社とのこと。更に東京都におけるマスターフランチャイズ契約を締結したのは、経営の多角化を進めている大手住宅設備総合商社の小泉(杉並区)だ、とのこと。つまり、日本での経営権を持ちレストランのプロデュースをする会社が、更に日本で地域ごとにフランチャイジーと契約する形式のようです。ウェブサイト上でも「威南記海南鶏飯では、東京都を除く日本全国においてフランチャイズ加盟企業を募集しております。」と書かれており、威南記で全国展開を狙っていることが伺えます。個人的にはシンガポールのNOVENAの今の場所に移転する前にあった店の前が開けっ放しでクーラーもなく大型の扇風機だけがガンガン回っているお店で海南鶏飯をかき込むのが東南アジアっぽくて好きだったのですが、そんなお店を無理に海外に引っ張り出して、且つ日本人の思うきれいなシンガポールのイメージに合わせてお店もガラッと変えてしまった感じでちょっと寂しいですね。日本の威南記は行ったことがないですが、シンガポールのお店はご飯に効いている鶏のだしと生姜がさわやかな風味で、更にテーブルの上の容器から好きなだけ取れる生姜ソースが鶏肉とマッチしておいしいです。

[五星 海南鶏飯]
http://tabelog.com/tokyo/A1308/A130803/13185413/
2015年8月に半蔵門にオープン。名前がファイブスターカフェに似ているが、ファイブスターカフェを運営するゴールデンダイニングのウェブサイトを見ても書いておらず関係ないのだと思います。

個人的にどこがおすすめかと聞かれれば、味・雰囲気から夢飯、海南鶏飯食堂、エビス新東記、松記鶏飯(※オープン順に記載)がおすすめです。味・雰囲気ともに温かみ・深みがあるというか、そういった意味で好きなお店です。海南鶏飯食堂、松記鶏飯ではシンガポール料理への拘りも強く、お店の人とのシンガポール料理談義も楽しめると思います。

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