Sunday, July 2, 2017

[中小企業診断士] 中小企業診断士とコンサルティングファームの報酬

前回は中小企業診断士とコンサルティングファームの違いについて、取り組む課題、人物要件・行動特性について述べ、診断士資格取得が大手コンサルティングファームへの就職に役に立つのかどうかについて述べました。

今回は報酬の観点から、それらの違いについて述べたいと思います。

中小企業向け(中小企業診断士):
報酬は顧客中小企業から支払われる場合と、公的機関から支払われる場合がある。ある程度資金にも余裕があり、一層の成長を望んで、または将来想定される環境・状況の変化に備え診断を依頼する中小企業の場合、中小企業から直接報酬を受取る。受け取り方にも、テーマを決めコンサルティングを行うごとに報酬を受取る場合と、顧問契約のような形で毎月・毎週等、定期的に重要な会議に出席、または経営者の相談相手となり、期間で決められた額を受取る場合とがある。一方、公的機関から支払われる場合もある。中小企業診断士が公的機関に専門家として登録し、中小企業が公的機関に援助を求めてきた際、公的機関が中小企業に専門家として派遣する。公的機関は派遣費用のうち、全額若しくは一部を負担する。この場合、中小企業診断士から見た場合、顧客は診断先中小企業であり、また派遣元の公的機関でもある。派遣先中小企業、派遣元の公的機関双方から高い評価を受け、実績を積むことがが再び派遣されることに繋がる。顧問契約のような定期的に収入が入る仕事以外は、都度仕事に対する報酬を受けることになり、毎月の収入が一定とは限らない。自身で収入と仕事のバランスのマネジメントをすることが求められる。

大企業向け(コンサルティングファーム):
報酬は顧客企業から支払われる。中小企業向けのコンサルティングに比し、プロジェクト報酬の絶対額は高い。その分、コンサルティングファームは個人でなく企業として一定の品質を保ち、かつスピード感のある仕事で、いい意味で顧客企業の期待を裏切る仕事をし続けなくては、高いプロジェクト報酬を得続けることはできない。顧客企業も就職人気ランキングの上位にくるような会社ばかりで顧客にも優秀な人が多く、かつそのなかでもさらに優秀な人がプロジェクトに顧客側担当としてアサインされるため、そう簡単には満足は得られない。個人としても、一定程度以上の成果(顧客満足、売り上げ、コンサルタントとしての稼働)を出し続けることができれば、それが当該年度の評価となり、翌年の給与に反映され、12分割され(会社にもよるが)月給として支給される。

どちらも、自分・会社というブランドを維持・高め、仕事を獲得し続けるために常に価値・品質の高い、スピーディーなコンサルティングを提供し続けることが求められる。いかに顧客企業の役に立ち評価され続けるか、報酬はその対価であるということを考えれば、どちらも非常に緊張感の高い仕事であると言えます。

前回から、①顧客企業の抱える課題、②コンサルタントとしての人物要件・行動特性、③報酬の考え方の観点から中小企業診断士とコンサルティングファームの違い・共通点について述べました。それぞれ少しずつ異なるものの、①共通して持っておいた方がよい知識・考え方があり、②重要な課題や今後の進め方について自身の意見として提示できる必要があり(論理的にも正しく)、③いい意味で顧客の期待を裏切り続け仕事及びその報酬を獲得する、といった点では共通しています。そしてそもそもそういった仕事をする理由として、中小企業診断士であれ、コンサルティングファームであれ、顧客企業ひいては日本をよりよくすること(究極的には世界をよりよくすること)に貢献したいということがあるのではないでしょうか。そのような考えを持った人であれば中小企業とコンサルティングファームを並行して目指すことは決して無駄なことではないと考えます。

確かに大手コンサルティングファームへの転職だけを目指す人は、中小企業診断士の学習に1年、2年の時間をかけるよりは、コンサルティングファーム向けの履歴書・職務経歴書・志望動機書の作成や、面接・ケース面接の練習に取り掛かる方が手っ取り早いかもしれません。ただ、コンサルティングファームで働いた後コンサルタントとして独立したい、結果としてコンサルティングファームへ就職できなくても中小企業診断士として世の中を良くしたいといった夢を持っている人であれば、中小企業診断士・コンサルティングファームへの転職を併せてを目指すことは十分意味のあることであると言えます。中小企業診断士を転職やステップアップのための資格としてではなく、「コンサルタント」になるための足掛かりと考えてはどうでしょうか。

Saturday, July 1, 2017

[中小企業診断士] 中小企業診断士取得は大手コンサルティングファーム入社に有利か

事業会社で働いているころ、自己研鑽として中小企業診断士資格取得のための学習をしていました。また、資格取得してそれを武器に大手コンサルティングファームへ転職したいと思っていました。当時、診断士資格取得がどの程度大手コンサルティングファームへの就職に有利になるのかとウェブで調べたところ、中小企業のコンサルティングを行う中小企業診断士と、大企業を相手にする大手コンサルティングファームとではその業務内容も異なり、中小企業診断士資格は大手コンサルティングファームへの転職にはそれほど有利とはならず、中小企業診断士の学習に時間を割くことは得策ではない、という意見が多かったです。本当にそうなのか。ウェブ上では、他人への嫌味、妬みだったりそういったものに基づいた正確でない意見があたかも多数派であるように見えることも多々あります。そういった意見は信じない方がいいです。

自身はその後、中小企業診断士養成課程で実際に複数の中小企業向けコンサルティングプロジェクトを経験し資格取得、大手と言われるコンサルティングファームに就職したことで、中小企業向け、大企業向けのコンサルティングをそれぞれ経験しました。そのうえで、診断士資格は大手コンサルティングファーム入社や、業務に役立つのか改めて考えてみました。


1.まずはそれぞれで取り組むべき課題の特徴を切り口に、共通点の有無を考えます

中小企業の抱える課題(中小企業診断士が取り組む課題):
・限られた経営資源(資金、人材)をどう使って生きのびていくのか(金銭的余裕のある大企業以上に多い制約)
・マネジメント業務をどのように後継者に引き継いでいくのか(事業継承)

・国や自治体、公的機関の補助金や融資制度、専門家派遣等の各種制度のうち、自社に活用できるものはあるのか、どのように活用するのか
・顧客企業が海外進出したが、自社もついていくべきかどうすべきか

大企業の抱える課題(大手コンサルティングファームが取り組む課題):
・会社が今重点的に取り組むべき課題は何か(社会の動向まで踏まえ)
・会社の将来像はどうあるべきか、将来像までどのようなシナリオで持っていくべきか
・大勢の関係者のなかどのように合意形成を図り、決まった方針に対してどのような順序で社内コミュニケーションを行っていくのか

このように、確かに取り組むべき課題には大きな違いがあります。ただ、業務のなかで必要な財務諸表を見ること、固定費・変動費の考え方、マーケティングの考え方、会社法・特許に関する知識、組織の形態、システム・データベースの考え方等、会社の規模に関係なく共通して知っておいた方がいい知識、考え方は多くあります。学習を通してコンサルタントに必要なこれらの様々な視点を得ることは十分可能ですし、学習意図を大手コンサルティングファームでの採用面接で言及することはアピールにはなると思います。実際に、コンサルティングファームでは様々なテーマのプロジェクトがありますが、幅広い基礎知識がると新しいテーマへの足掛かりとなり、キャッチアップが早いと思います。



2.次に、コンサルタント自身はどうあるべきか、人物要件・行動特性から考えます

中小企業へのコンサルティングに必要な人物要件・行動特性:
①中小企業経営者の相談相手になれる(社員の人生・生活を背負い、常に仕事のことを考えている経営者と対等に話ができるだけの知識・自分なりの考え・気迫の持ち合わせ)

②国、自治体、中小企業支援機関の各種施策及びその活用方法についての見識がある
③国、自治体、中小企業支援機関とのネットワークがある(専門家としての登録、実績の積み上げ)
④セミナー、講演会等の講師として、経営についてわかりやすく整理して伝えられること

大企業へのコンサルティングに必要な人物要件・行動特性:
①論理的にものごとを考えられること(社内で意思決定・方針を展開する際に出されるであろうあらゆる意見・反対意見を想定、それでも方針が最も正しいはずだと言える必要があるため)

※特に大企業では、意思決定には様々な関係者がおり、どのようにして各関係者に納得してもらうか、鍵穴に合う鍵を作っていくような論理建てが求められます
②前例、類似する事例のない課題であっても、自ら考え、自分なりの対応方法をひねり出す

※顧客は世の中にない取り組み、自社では初めての取り組みに対してコンサルタントに協力を求めてくることが多いです

共通で必要な人物要件・行動特性
①自分なりの考えが本当に正しいのかと説明できるために論理的思考で他の方法・他の切り口も既に検討し尽くしていること(特に大企業でより重要)
②常に顧客の先を考えていることで、質問・意見に対し即答し、議論を踏まえその場で今後の主要な課題・進め方について提示できる(議論をスピーディーに進めることも価値のため、持ち帰って検討することは極力しない)
③ワード、エクセル、パワーポイントは顧客に教えられるくらい使いこなせているとともに、作業に費やされるスピードを極限まで短く、考える時間・顧客と話す時間を最大限多くすることを意識している

※②、③では、クライアントにさすが、と言われるくらいのスピード感でないとコンサルの存在が後押しになっていると思ってもらえないです

大企業へのコンサルティングや共通で必要な人物要件・行動特性については、資格取得に向けた学習のみで身に着けることは難しく、確かに中小企業診断士資格の学習ではその獲得には適していない、ということはできます。また、そもそも中小企業のコンサルティングに必要な人物要件・行動特性自体も実際には資格の学習だけでは難しいと言えます。そのため、これは日ごろの業務の中で、お客さんとの議論、社内の議論、社内のプロジェクト等を自らリードするなかで培うことが必要です。

1.及び2.を踏まえると、中小企業診断士資格の取得に向けた学習は大手コンサルファームで働くにあたっての基本的知識の獲得には有効であり、また面接でもアピールは可能。ただ、それだけでは中小企業・大企業にコンサルティングを行う場合ともに必要な人物要件・行動特性については十分に得ることはできないため、現職で意識的に経験を積んできた、結果そういった行動様式を身に着けてきたと言えることが重要です。中小企業診断士の学習をしつつ、会社では自ら率先してホワイトボードの前に立ち議論をリードしましょう!